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2023/03/03 09:39

カメラマニアの間には「黒皮病」という言葉がある。

カメラがまだ、耐久消費財といわれ資産価値を有していた時代は、金属で作られたカメラの表面はクロームメッキに覆われていた。

「ボーエンだよ、ぼ・う・え・ん。ワイドだよ、わ・い・ど」あるカメラメーカーが盛んにTVでそんなコマーシャルを流していた時代の話。

しかしながら、カメラを仕事で使うカメラマンの機材は、クロームメッキ仕上げではなく「黒色塗装仕上げ」であった。

新聞社の報道記者、フリーランスのファッションカメラマン。
彼らの肩に、あるいは、首から下げられたカメラは一応に「黒いカメラ」であった。

カメラメーカーはそのような職業写真家向けに特別な「黒色塗装仕上げ」の個体を供給していた。

もちろん一般のマニア向けにも販売はされていたが、価格は、一般的なクロームメッキ仕上げに比べ2~3割ほど高価な製品。
この23割のハードルが、一般人の財布には大きな負担となったことは否めない。

しかしながら、

「ベトナムの戦場では、クロームメッキのカメラは太陽光を反射し、狙撃の目標にされた」

「事件現場ではその場に溶けこまなければならず、クロームでは目立ちすぎる」

「ファッション撮影ではモデルにカメラを意識させないで自然な表情を切り取る、クローム仕上げでは『カメラでござい』で目立ちすぎてモデルの気が散る」

アンリ・カルティエ・ブレッソン、ライカを使い、市井の人々の日常を記録したカメラマン。彼のライカは、クロームメッキ仕上げの個体を黒いテープで完全に覆いつくされていた。クローム仕上げのカメラでは目立ちすぎ、自然な表情を撮影できないという彼の経験から得た結果がそうさせたのだろう。

30年以上前、銀座のとあるカメラ屋の店頭に、使い込まれ、黒色塗装は剥離し下地の真鍮が垣間見え、ペンタプリズムがへこんだ、Nikon Fが長らく展示されていた。

その店はNikon製品を主力としていたので、

Nikonはここまで使い込んでも完全な動作をします」とのメッセージが掲げられていた。

一般人が見ればボロボロの個体だが、黒皮病に罹患した小生には、垂涎の的の一台だった。